狂気の時代に正気を貫くのもまた狂気、抑圧と反抗の第10話でございます。
クソみたいな階級管理社会となった甲鉄城の中でまだ諦めない生駒が、美馬への反抗計画を開始! 自由と誇りを取り戻せ!! かーらーのー、美馬様の絡め手に引っ掛けられるわ、無名ちゃん十二歳はエロ同人みたいな洗脳シチュで敵に回って刺してくるわ、踏んだり蹴ったりでした。
逞生も死んだしな……お前、逞しく生きるって名前なのに自己犠牲代表になってどーする……。
フラグはこれ以上ないほど積んではいたけど、そういうの別に守らなくていいからさぁ……。

皆同じ衣装を着せられ、色別の腕章で管理され(これ、ナチ政権下のユダヤ人政策を連想してすげー嫌な気分になりました)、ボイラー蒸すことも行き先を決めることも出来ない抑圧から、今回のお話は始まります。
こうして主導権を失ってみると、荒野を疾走する甲鉄城は自主性のモチーフとしてよく出来ていたんだな、と思います。
常に厳しい試練を与えてくる世界に対し、自分たちで速度と方向を決め、反発し共同しながら歩みを止めることのない甲鉄城は、混沌としながら活力に満ちていて魅力的でした。
翻って狩方衆に制圧された今は、蒸気迸るパワーも失い、戦う相手も人格のある人間という、なんかこうションボリする状況です。
道を走っていることそれ自体は同じなんだけど、それを自分で選びとり、強烈なパワーを手元において疾走している感覚が薄いのは、『疾走する社会構造』としての甲鉄城が上手く出来ていた証拠でしょう。

そんなクソ以下のクソみたいな抑圧と隷属は、当然ひっくり返してより良い状況に変えるべきであり、生駒たちも団結して正しい行動をします。
しかし正義の反乱は策士気取りの美馬様に見事に抑えこまれ、生駒は腕なくして海に落ちるわ、逞生は死ぬわ、無名ちゃんはイヤだってんのに洗脳されてまた戦闘機械に戻されるわ、見事に大失敗します。
美馬の言動に頷ける部分がないため、『美馬様の事情はもうどうでも良いから、とっととひっくり返してほしいなぁ……』と思っているところにコレは、ちと肩透かしというか、焦らすねぇというか……。


カタルシスはストレスと背中合わせであり、不満を溜め込めばこそそれが成立した時の快楽が大きいというのは、よくわかります。
下世話な言い方をすれば、『ガマンすればいっぱい出る』のが物語の基本なわけです。
しかしそのためには我慢を飲ませるだけのロジックが必要であり、生駒達が現状世界の正義を100%握りこんでしまっているシンプルな状況では、僕は素直に『ひっくり返せばいいじゃん、クソなんだし』と思ってしまう。
敵にも一部の理があって、学ぶべき美点があって、単純に殺せば終わりというわけではない……というストレスならば、楽しく悩むことも出来るんでしょうけどね。

物語における『我慢できるストレス』の代表が『魅力的な悪役』ですが、美馬の行動理念である10年前の事件が美馬側からしか描かれないために、現状美馬はただの逆恨み人間です。
世界を巻き込む大義もなく、幕府をひっくり返す理由も視聴者には見えない状況では、あの人は人を殺し子供を洗脳し私欲のために他者を犠牲にする、ただの人殺しです。
そのくせ根は小心者で嘘つきだからなぁ……。
自分が為している悪に胸を張って揺るがないのであれば、その理念の是非は別として態度に感心することも出来るんでしょうが……手段を選ばず何事かを為すという狂った情念も、そこまで感じられないしなぁ。

現実ではやってはいけない悪をフィクションの中で繰り広げ、仮想の悪事に酔いしれることは、健全な欲望充足だと思います。
しかしこの作品において、そういう『見ていてスカッとする悪』はカバネが担当してしまってます。
自意識を失い、スーパーパワーを躊躇なく奮って、燃やし、殺し、破壊するの人の形をした災害には、目を背けつつも見てしまう、不思議なパワーがある。
『俺もあんなふうに、なんにも考えずぶっ殺してみてぇ』という薄暗い欲望を満たしてくれる、言葉を超えた説得力が確かにある。

翻って美馬一派は、なまじっか調略や嘘を使いこなし、自分の都合の良いように状況を偽る知恵がある分、なんにも考えずに突っ走るカバネよりも小賢しい感じがします。
その小賢しさを適切に使えば何が出来るか、生駒達が上手く示している以上、そして小賢しさを振り捨てて大暴れするカバネに満ちた世界を見せられてきた以上、彼らを見て思うのは『そんなことしている場合か』です。
まぁ、主役たちの影としてカバネとは違う存在を出すことで、これまで展開してきた話とは別の角度から掘り下げていきたいってことなんだろうけど……。
カバネのブルータルな活力と、甲鉄城のあふれる蒸気が火花を散らす展開に切迫感を覚えていただけに、今の停滞した展開は個人的には残念なわけです。


とは言うものの、逞生がぶっ殺されてから「感想を言え!」に至る流れは、なかなかクレイジーで良かったです。
いや良くねぇんだけどさマジてん…逞生死んでるしさ……。
ともかく、親友を殺されてもなお、人を殺すためには力を使えない生駒のモラリティと、それとは正反対の美馬のクソっぷりはよく見えたと思います。
そこで絶望に墜ちてしまった結果が今の美馬であり、『お前も俺と同じになれ!』という呪いをかけてくる辺り、マジ質悪い……開き直らないからこそ、世界に絶望しちゃった仲間たちを集めてるんだろうしね。
生駒の「なんでそんな事するんだぁああ!!」という叫びは見ている人の見事な代弁でしたが、美馬様はいつもの様に言辞を弄し、血を吐く真剣な想いを受け取りはしません。
この期に及んでまだ何かを隠していると、逆に小物感上がっちゃって凄いな……早く何考えているのか、ハッキリさせて欲しいんだけどな……。

甲鉄城の連中が血袋に落とされるに至って、無名ちゃんも自分の願いを取り戻し、美馬に反旗を翻しました。
『よし! 行け!! スタイリッシュカバネリアクション再び!!!』と拳を握ったわけですが、『血を抜いて弱くしておいた』という美闘士陥落系同人誌みたいなシチュエーションでボッコボコにされ、洗脳されて生駒をぶっ刺す流れに。
倫理的な正しさを自力で取り戻す流れ自体は、これまでやって来た積み重ねが生きる良い展開なんだけど、そこで肩透かしを食らわされるのは……これもカタルシスのためのストレスかしら?
そうでなくても無名ちゃんは辛い人生送り過ぎなので、『牙』としての生き方を振り捨てた時点で美馬の影響下から抜け出し、人形から人間に変わってくれると嬉しかったけども、まだその段階じゃないってことなんでしょう。
クロケブリの心臓になった無名ちゃんを生駒が助けるシーンをやるために、まだ美馬の手元においておかなきゃいけないって所かなぁ……。


と言うわけで、甲鉄城の面々と無名ちゃん、両方の反攻が盛り上がり両方叩き潰されるというタメの回でした。
タメ自体は物語に必須だと思うし、カバネという災害や甲鉄城の身分制度とかは上手く機能したタメでしょう。
美馬様とその仲間たちが、これまでの展開ほど魅力的な圧力発生源になってくれてないのは、正直惜しいところだ。

予告見るだに生駒が腑抜けるようですが、行方不明だけど一切心配されてない来栖が気合を入れなおしてくれ……んじゃないかなぁ。
一度迷って自分の道を見つける流れは大事だと思うんで、これまで覚悟全開マンとして話を引っ張ってくれた生駒作中初の挫折、上手く描いてほしいなと思います。
な~んも考えない超ストレートな意見言うと、『とっと美馬ぶっ殺して別の話しよーぜ』って感じだけどね。